言葉にするのは怖かった
手を伸ばすのはもっと怖かった
何かが壊れる音が耳の奥で聞こえていた
あのとき私はそれを無視した
今もホントは聞こえてる気付かないフリは、もう出来なかった
あの時と同じである事を知っていたから
もう二度とこうして人を傷つけることはしないと決めたから
踏み込んだ足を止めた
私の刃はまた中途半端に人を殺めて
諸刃が私をも殺せば良いと願った
深く握った其れは私の臆病な力で誰も殺めはしなかった
浅黒い血だけが滲んでいた
私なんて消えれば良いと思いながら
最後の願いに彼を抱きしめた
戻る道を確認し過ぎて
もう一度差し出してくれた彼の手を握ることを躊躇した
言葉にする度それは事実になって私を苦しめるから
口に出かけては飲み込んだ
私は
あのとき自分に優しい道を選んだ
だけど今は窮屈から逃げているわけではなく
だってだとしたら貴方の下へは戻らない
わたしは、
久しぶりの姿に
居なくなってしまう事実に
今更「貴方」を思い出して
ただそれだけで
でもそれは私にとって大きな事実で
何処へも行かないで欲しかったあの頃の彼は
私の中で消えてしまって
気付くと見えなくなるまで近くに居て
私逃げてるわけじゃない
初めて言いたい
でも言えない
これを言ったら終わってしまう、かもしれない
久しぶりの背中は変わらず暖かくて
そのまま何処かへ連れて行ってくれたなら
あのとき目を瞑っていたらその身を委ねていたなら
暗転の中全て取り戻せただろうか
わたしは
私は!!
それでも、失うモノを振り返って
私は何処へも進めない
別れなければこんなことにはなって無かったけど
別れたから今お互いを見ている
もしもう一度、と思うのは卑怯者たる所以
それでも、もし今もう一度、?
いつか全てが壊れたら
私は灰になって大嫌いな春に色を添えよう
黒猫の死骸は桜の花びらがその身を隠す
忘れ去られた頃、そんなやつもいたな・と思う飼い主も無く
私の中で思い出だけが残酷に鮮やかだ
もう一度手を伸ばしたら今度は何が掴めるだろう何が毀れるだろう
確実なことは何一つ無い
いつ沈む足元?
暗転の先にはカーテンコールかそれとも。