「君は狂ってるよ」
「そうなの?」
「だって普通じゃないもの」
「そう」
「どうして笑っているの?僕は貶しているのに」
「貶しているの?」
「そうだよ、僕は君を軽蔑して、貶してるんだ」
「普通だったら落ち込むところかしら」
「そうだね、でも君は普通じゃないから、きっと落ち込まないんだろうね」
「ええ、だって私、わくわくしているもの」
「わくわく?何が楽しみなの?」
「楽しみなことなんてないわ。だけどわくわくしているの」
「それはきっと普通のわくわくじゃないんだね」
「普通のわくわくってどんなの?」
「うーん、何かを楽しみにしているときに、胸が、こう、弾んで、高揚する感じ」
「高揚しているわ。楽しくはないけれど、嬉しいの」
「嬉しい?」
「そう、貴方が私を狂っていると言ったことが」
「変だよ君」
「ねえ、普通は、普通はどうするのこういうとき」
「ええ?」
「普通の女の子なら、何ていい返すのかしら」
「わかんないよ、狂ってるなんて女の子に言ったことないもの」
「想像よ、想像力を働かせて」
「うーん、そんなことないわ!って、声を張り上げるかな」
「そんなことないわ!」
「だから想像だって」
「そんなことないわ!」
「君が言ったんじゃないか」
「そんなことないわ!」
「言っただろ!」
「そんなことないわ!」
「もういいよ、疲れた」
「うふふ、面白いわね」
「僕は面白くない。ねえ、帰って良い?」
「良いわよ、別に、帰らないで何て、ひとことも言ってないもの」
「そうだったね、それじゃあね」
「ええ、またね」
「もう来ないよ。あ、」
「どうしたの?」
「あまり外に出ない方が良いよ君。変な噂がたつよ」
「貴方は外に出ているのに?」
「僕は普通だもの。普通は外に出ても大丈夫なんだ」
「ふうん、おかしいのね」
「おかしくないよ、それが普通の考えさ」
「貴方は普通なの?」
「そりゃそうさ、君が普通じゃないって分かるくらいには」
「私は普通じゃないの?」
「何度言わせれば分かるんだよ」
「私は普通じゃないの」
「そうだよ」
「私は普通じゃないの」
「じゃあもう僕行くから」
「ねえ、出て行くの?」
「そうだよ」
「出るのは出口よね」
「ああ」
「じゃあそっちじゃないわ」
「何言ってるんだい、扉はそこだろ」
「そこは入口よ」
「扉ひとつで出口も入口もあるかよ」
「じゃあ貴方どこから来たの?」
「どこからって、この扉からだよ」
「じゃあそこは入口。出口じゃないわ」
「おかしなこと言うなよ」
「おかしなこと?入るのが入口、出るのが出口。私間違ってる?」
「屁理屈って言うんだ」
「入ってきた扉を出口という貴方の方がおかしいわ」
「おかしいって、僕が?」
「そうよ、だって、入口から出る人は普通じゃないもの」
「君におかしいとか、言われたくないよ」
「それなら出口から出て行ってよ」
「ここが出口さ」
「じゃあ入口はどこ?貴方、どこからこの部屋に入ってきたの?」
「そりゃあ、この、」
「出口から入ってきたの?」
「あれ、僕どこから」
「なぁんだ、普通じゃないのは貴方なのね」
「そんなことない!」
「貴方は普通じゃないから、出られないんだね」
「そんなことない!」
「可哀そうに」
「そんなことない!」
「ねえ、わくわくするんでしょう」
「そんな、こと、」
「胸が弾んで」
「高揚して」
「どこかほっとしている」
あなた、狂ってるわ。